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ARTIST
彫刻家
瀬戸優(せとゆう)
気鋭の彫刻家・瀬戸優。
日本美術の最高学府・東京藝術大学を今春卒業。
彫刻家として生きることを選び、作品を作るためにパトロンを募る。
彫刻は「3つ購入したら終わり」と言われるように、絵画などにくらべ需要が少ない。
それは、日本家屋においては、いくつも彫刻を飾る場所がないというのがその大きな理由の一つだからです。
そんな彫刻の道を切り拓く瀬戸優のインタビューです。
―「得意な数学」より「好きな美術」
高校2年生まで私は得意な数学での進学を考えていました。
しかしその夏には志望大学を提出しなければならず、そこで初めて「このままで良いのか?」と疑問を抱いたのです。
それまでは、なんとなく流されて生きていたのだと思います。
得意な数学よりも好きな絵を描くことを仕事にするべきだと思い、美術大学への進学を決めました。
美術大学へ入るには美術予備校へ通わなければならないということで、体験に行き、はじめて彫刻と出会いました。
―古くて権威的な彫刻
まず、日本で彫刻というジャンルを学ぶ同年代がいることに衝撃を受けました。
「彫刻って何?」という状態で、カルチャーショックを受けました。
彫刻とはその頃の私にとって遥か遠い存在で、「偉い」「古い」などといったイメージでした。
街中の彫刻は、国なのか県なのか市なのか、偉い人が偉い人に依頼して出来上がるものでしかないと思っていたのです。
しかし、私と同じ学生が彫刻をやっているのを見て、自分にもできると思ったら、すぐにのめり込みました。
―東京藝大入学、1日1デッザン
東京藝大彫刻科では1・2年生で基礎を学び、3年生から自由に制作ができるようになります。
当時1年生だった自分には、彫刻を作りたくても場所も手段も時間もありませんでした。
その代わりにできることとして、自宅でたくさんデッサンを描きました。
1日1枚必ず描くということを決め、ツイッターに載せるのが日課になりました。
すると次第に見てくださる方が増え、あるとき「作品を売ってくれませんか?」と問い合わせがあったのです。
そこで初めて自分の作品を販売することになり、作家を意識するようになりました。
―辞めたかった美術界の最高学府「東京藝大」
日本で芸術家として生きていくには、大学院を経て、大学に研究者の職を得て、自分の作品を作る、というのが理想的かもしれません。
しかし、私は一刻もはやく大学を辞めたかった。
早く社会人を名乗りたかったのです。
学生の作品は軽く見られることが多いということもありました。
一般的に東京藝術大学は美術大学の最高学府とされていますが、なぜ東京藝大を選んだかというと、
進学するなら家計を圧迫しない国立しか選択肢がなかったからです。
―収入を得てはじめて彫刻家
私の父親は長年求人会社で働いております。そのため幼い頃から「職業意識」がものすごく強いです。
彫刻家として生きていくことを家庭から許されるには、職業を名乗れる、つまり食べていけることが前提です。
ストイックに結果を出し続け、収入を絶やさないということにプレッシャーを感じています。
「食べていけること」と「やりたいこと」が両立できたら最高です。
日本の美術市場では、視覚的魅力が優先され、コンセプトは軽視される傾向があります。
だから、アーティストにおいて言えば「コンテンポラリー」でありながら「ビジュアルアート」としても見応えのあるものが作りたい。
彫刻作品については「ステファニー・クエール」や「リングル・レベテズ」に強く影響を受けています。
―視覚を超えたリアル
「リアル」という言葉にはいろいろな意味が含まれます。
「本物そっくり」「細密な造形」などといった視覚的リアルと、「動き出しそう」「生々しい」などのリアル。
また「リアルタイム(同時刻的)」といった言葉のニュアンスもあります。
私の作品で視覚的リアルはあまり重要ではありません。「生き生きしていること」と「同時刻的」であることが重要です。
また、作品には指紋やヘラの跡など、造形する上での痕跡が多く残されています。私の息遣いや素材との対話の時間を、作品を通じて感じてもらいたいですね。
それも私が制作したという「リアル」です。
―インプットとアウトプット
作品の構想自体は制作する半年ほど前からある場合がほとんどです。
考えているうちにコロコロと考えや構成が変わっていくのですが、実際に造形に入ってからはイメージが変わることはほとんどありません。
なるべく固めたイメージを崩さないよう最短最速の時間で造形します。
アウトプットのスピードが早いのが、粘土という素材の魅力の一つです。
―野生動物は社会の象徴
幼少期から自然科学が大好きで、図鑑や資料を見て育ってきました。
特に進化生物学に関心があります。
そこに魅力を感じるのも、進化してきた生命が今もなお残り、自分と「同時刻的に」地球のどこかで生きているということに感動があるからです。
代表作はと聞かれたら、今のところ大学の修了作品「水月-シロサイ-」です。
これまでの作品の中で最も「社会的」です。
絶滅危惧種と人間の関係は考えれば考えるほど人間のエゴなのですが、無視できません。
動物愛護のような活動をする気はないのですが、形に残していくことは大切だと思います。
また、私にとってはモチーフとなる動物の「種」を作ることと、特定の「個体」を作ることはまったく異なります。これからも「種」をテーマに広い視野で制作していきたいです。
―宮崎駿にそっくり?
私などがおこがましいですが、宮崎駿の作品・仕事に対する考え方に強く共感します。
特に、作り終わった作品に頓着が全くないところや、次に何を作るかで頭がいっぱいなところなど自分とそっくりだなと思います。
過去に描いた絵を覚えていないところなど......。
作品によっては完成して数時間で出荷、なんてことも少なくありません。それでも辛くならないのはそういうマインドがあるからかもしれません。
―何かとつながるため
私が作家活動をしているのは、自分が生きているという実感が欲しいのだと思います。
同時刻に生きている動物を彫刻にすることと、作品を通じて誰かと繋がることでそれを感じることができます。
現在動物園で見られる有名動物たちも、おそらく数十年足らずで自然界では絶滅してしまうと言われています。
鑑賞者に対して、また社会に対しては何かを訴えていくほど強い主張はないのですが、やはり動物や自然環境に対して考えるきっかけになってくれたらとは思います。
瀬戸優(せとゆう)
彫刻家。藝大
1994年神奈川県小田原市生まれ。
自然科学を考察し、主に野生動物をモチーフとした彫刻作品を制作する。
彫刻の資材であるテラコッタ(土器)は作家の触
覚や軌跡がダイレクトに現れ、躍動感のある作品となっている。
画廊での展示販売を中心に国内外へ幅広く作品を提供。
その他ペン画やイラストレーションなども幅広く手がける。
◆経歴
1994 神奈川県小田原市生まれ
2014 東京藝術大学美術学部彫刻科 入学
2018 東京藝術大学美術学部彫刻学科 卒業
四季彩舎にて初個展「瀬戸優展 月を知る」
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻 入学
2020 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻 終了
◆Award
2015 藝大アールイン丸の内賞(GAM賞)
2016 観光賞 第二席
2017 KENZAN2017 roidworksgallery賞 受賞
2020 東京医科歯科大学奨励賞
◆Works
2015 ふくろう喫茶「ふうろうのおうち」に作品提供。店内装飾とオリジナルグッズを手がける
2017 「ブレイク前夜~次世代の芸術家たち」(BSフジ)出演
2018 ファッションブランド「FRAPBOIS」とコラボレーション。
2019 クラウドファンディングを開始
◆Exhibition
2018 初個展「瀬戸優展 月を知る」/四季彩舎
2019 アートフェア東京「瀬戸優展 水源」/四季彩舎ブースにて
「瀬戸優 ドローイング展」/四季彩舎
ART TAIPEI吉野美術ブースより出品
2020 巡回展「瀬戸優展 -mother star-」/四季彩舎・gallery35
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Next Artist ―――陶芸家 SHINO TAKEDA